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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和24年(控)881号 判決 1950年3月20日

被告人

富田又は友田若くは

共田こと黄寅碩

外一名

主文

被告人趙成鎮の控訴を棄却する。

原判決中被告人黄寅碩に関する部分を破棄する。

被告人黄寅碩を懲役八箇月および罰金一万円に処する。

原審における未決勾留日数中六十日を右懲役刑に算入する。

被告人黄寅碩において右罰金を完納できない時は二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

被告人黄寅碩が(い)昭和二十四年四月二十四日頃自宅から大阪市内省線玉造駅まで福井市立木田小学校が盜まれた天幕七枚を臟物であることを知りながら鉄道等を利用して運搬し(ろ)同年五月十八日頃自宅から福井市宝永下町丸共運送店まで福井市立第四中学校が盜まれた天幕約七枚を臟物であることを知りながら同運送店の人夫をして運搬させ(は)同日頃自宅から福井市内省線福井駅まで福井市立明倫中学校が盜まれた天幕十一枚を臟物であることを知りながら運搬し(に)同年六月十四日頃自宅から大阪市内省線玉造駅まで福井市立成和中学校が盜まれた天幕を贓物であることを知りながら鉄道等を利用して運搬したとの点は無罪。

理由

弁護人斎藤実の控訴趣意第一点について

間接正犯は情を知らざる犯意なき者を自已の手足として利用し之をして自己の犯意を実現せしむることを指称する。本件は中原こと被告人趙が贓品たる天幕八枚を情を知らざる朴龍文をして同人方に保管せしめ以て之を寄贓したもので被告人趙には贓物寄蔵罪の間接正犯の成立があることは論のない所である。この場合、被告人趙が自ら天幕を朴方に搬入し或は搬入につき朴と対談し或は朴に対し搬入の有無を確むる如き搬入に関する現実の支配的関係が直接に被告人趙との間に成立することは必要要件ではない。被告人趙の本件犯行が相被告人黄よりの寄蔵場所斡旋依賴に基き発動したことおよび朴龍文が寄蔵物件の所有者が被告人黄であることを知つていてもこれ等の事情は被告人趙の本件犯行成立に何等影響を及ぼすことはない。所論は右と異る見地に立つて原判決の認定を論難するもので採用しない。

(弁護人斎藤実の控訴趣意第一点)

原判決は間接正犯の概念を誤解しその前提となる重大なる事実を誤認したる瑕疵がある。即間接正犯なるものは文字通り正犯の一態様である故に本件に付いて之を看るに被告人が自ら之を寄蔵する意思があり単にその実行の方法として賍物たる情を知らざる朴方住居を選択し同所に於て保管寄蔵したと言う場合でなければ被告人に付き賍物寄蔵罪の間接正犯としての罪責を生ずる余地がない。

換言すれば中原被告人が朴龍文方に保管したる判示物件に付き寄蔵行為の当事者として或程度の実力的支配関係の成立して居る場合でなければ中原被告が賍物寄蔵の間接正犯を以て問擬せらるべき事由なきこと極めて明白と謂わねばならぬ。

然るに本件に於て関係証拠を綜合して之を看るに中原被告に対しては相被告人黄寅碩より保管方の依賴があつたものではなく単に寄蔵場所斡旋方の依賴により相被告朴龍文に紹介したに過ぎず、従而朴龍文が判示物件を保管方決意するに付き中原被告の紹介口添は之が決意をなすの機縁動機とはなつたとしても現実の搬入の際には中原被告は朴龍文と対談せず、又その後搬入の有無を確かめても居らず預け主が相被告の黄寅碩であつて中原被告でなかつたことは前後の事情に鑑み朴龍文に於て当然領知して居たと考えられ、かかる事情の下に於ては該保管物件につき中原被告が朴龍文に対し黄寅碩の希望若くは指示であることを示さずして単に中原単独の意思であるとしてこれが移動処分其の他の指示を為した場合に於ては朴龍文が怪まずして之に随順する様な当該物件に対する実力的支配関係が成立して居る形跡が全くない。

果して事実関係上述の如くなりとすれば中原被告に対し間接正犯の成立の余地なく重大なる事実誤認の存すること明白である。

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